空間オーディオの立体感を同じ曲で比較: Dolby Atmos vs 360 Reality Audio
空間オーディオには「Dolby Atmos」と「360 Reality Audio」の2種類があります。
立体音響としてどっちがいいんだろ?って思いますよね。
同じ曲で2種類の空間オーディオを聴き比べました。
空間オーディオとは
人間が音を聞くときには、音のズレや壁などの周囲の物体からの反響なども同時に感じ取って、過去の経験と照らし合わせて位置関係を把握します。これが立体感として感じられる感覚です。
機械的に音のズレや反響を作り出すことで、誰でもある程度の立体感を感じる音響を作ることができます。
脳が立体だと感じるように音の成分を調整する技術を盛り込んで、自分を取り巻く周囲で音が鳴っているような感覚で音楽を聴けるようにするのが空間オーディオです。
空間オーディオの定位がバッチリ決まると、イヤホンやヘッドホンで聴いている音楽が、まるでサラウンドスピーカーから出ている音を聞いているみたいに感じられます。
音楽用の立体音響技術として、二つが主流になっています。
Dolby Atmos(ドルビー・アトモス)
映画の立体音響でよく使われる技術です。
ステレオによる左右+サラウンドスピーカーによる前後に加えて、天井スピーカーによる上下の変化を加えているのが特徴です。
Dolby Atmosは、再生環境によっていくつかの規格がありますが、ヘッドホンやイヤホン向けの規格が音楽配信サービスなどで使われています。
Appleが自社サービスの中で採用したことで、注目を集めました。
360 Reality Audio(さんろくまる・リアリティ・オーディオ)
ソニーが主導して普及を進めている立体音響の規格です。
音楽の制作者は、360 Reality Audio を使うことで、体の下も含む全天球の任意の場所に音を配置することができます。
イヤホンやヘッドホンで音楽を聴くと、通常は頭の中で音が聞こえるような感覚ですが、頭の周囲で音が鳴っているみたいに感じます。
立体感の補正
Dolby Atmos でも 360 Reality Audio でも、誰もがある程度は立体的に感じられる基本的な 3D 音響は作れます。
でも、耳の形や体型などが人それぞれで違うので、少しずつ立体感の感じ方も違います。音が耳に届くまでに、壁や地面などに反射しているし、自分の体に当たって変化もしています。
その個人差を補正することで、よりリアルな立体感を得られます。
補正する方法は、以前はAppleとソニーで異なっていましたが、下記の「個人最適化」機能と同等の仕組みをAppleも導入しました。。
Appleの場合、以前から自社製イヤホン・ヘッドホンに組み込まれているジャイロセンサーを使って、方向や高さの補正を行う機能を搭載していました。Appleはこの技術を「ダイナミック・ヘッドトラッキング」と呼んでいます。全自動で立体感の補正ができるので、ユーザーには何も意識させないまま効果が発揮される、Appleらしいとても優れた機能です。
現在はこれに加えて、カメラで耳の形を撮影して最適化する機能も搭載されています。これがとても効果的で、空間がより広い印象になります。
ソニーの場合、専用のアプリを使って耳の形を登録することで、AIが解析して個人に最適化します。個人最適化は、ソニーによる 360 Reality Audio 対応の認定を受けた製品が必要になります。
Appleの機能では距離センサーを前面カメラに搭載した機種が必要になりますが、SONYの場合は距離センサーのないカメラで撮影した画像でも最適化が可能です。
つまり、最適化をしていない場合は 3D オーディオ・立体音響ではあるけれど「空間オーディオ」ではない訳です。3D オーディオ・立体音響 + 最適化補正 = 空間オーディオです。
ダイナミック・ヘッドトラッキングの詳細については、こちらの記事で解説しています。
空間オーディオが聴ける音楽配信サービス
iPhoneユーザーにとって、空間オーディオを体験できる身近な音楽配信サービスは、Apple Music・Amazon Music Unlimited・Deezerの3つだと思います。
Apple Music
Dolby Atmos のみ
Apple Musicで提供されている空間オーディオ技術は、Dolby Atmos のみです。
Amazon Music Unlimited
両方
Amazon Music Unlimitedでは、Dolby Atmos と 360 Reality Audio の両方が使われていて、アーティストがどちらかを選択して作成できます。現時点では、最も多くの曲が立体化されていると思います。
Deezer
360 Reality Audio のみ
Deezer は日本のユーザーにはあまり馴染みがない音楽配信サービスかもしれません。フランスの会社で、CD音質のHi-Fiサウンドの配信の先駆け的存在です。360専用の再生アプリを提供していて、個人最適化に対応していますので、フルパワーの 360 Reality Audio を体感できます。
空間オーディオを聴くための準備
Apple MusicもAmazon Music UnlimitedもDeezerも、空間オーディオを聴くためにはサブスクリプションに登録している必要があります。
無料期間があるので、とりあえず3つに登録してみて、好みに合うサービスを継続するといいと思います。
Apple Music の登録
月額料金
個人 980円
家族 1,480円
Amazon Music Unlimited の登録
月額料金
個人 980円(プライム会員は780円)
家族 1,480円
Deezer
月額料金
Hi-Fi プラン 1,470円(App内課金だと1,500円)
設定
Apple Music
設定アプリ > ミュージック > ドルビーアトモス
を開きます。Apple製イヤホン・ヘッドホンを使う場合は「自動」、他社製・有線接続のイヤホン・ヘッドホンを使う場合は「常にオン」に設定します。
Amazon Music
画面右上の歯車アイコン > 設定
を開きます。「ドルビーアトモス/360 Reality Audio」のボタンをオンにします。
Deezer
「360 by Deezer」アプリをダウンロードします。
Sony Headphons Connection アプリを起動して、360 by Deezer の最適化を行います。
ラウドネス・ノーマライゼーションはオンの方が高音質
Apple MusicとAmazon Music Unlimitedは、同じ設定画面に
- Apple Music: 音量の自動調整
- Amazon Music: ラウドネス・ノーマライゼーション
という設定項目があります。
Deezerは
画面右上の歯車アイコン > 設定 > オーディオ
を開いて「音量を標準化する」のボタンをオンにします。
これは、楽曲ごとに異なる音量を調整して、すべてで大体同じくらいのボリュームになるようにする機能です。
ステレオ圧縮音源の配信の場合、この機能をオンにしていると音の輪郭がぼやけるような感じになって、音質が劣化してしまいます。
音楽が好きな人はオフにしている人が多いと思いますが、空間オーディオに関しては逆です。
オフにしていると、空間オーディオの音がぼやけてしまい、特に低音がどこかに行ってしまったような、締まりのない音質になってしまいます。
音量の均一化機能は、空間オーディオの場合はオンで使いましょう。
聴き比べる
準備が整ったら、同じ曲でAtmosと360で立体音響にどんな違いがあるのか聴いてみましょう。
同じ曲でDolby Atmosと360 Reality Audioを聴き比べる
アーティストの中には、同じ曲をApple MusicではDolby Atmos、Amazon Music Unlimited と Deezer では360 Reality Audioで提供している場合があります。
例
カミラ・カベロ
Don’t Go Yet
Doja Cat
アルバム「Planet Her」の各曲
これらは、Apple Musicではドルビーアトモス、Amazon Music Unlimited と Deezer では360 Reality Audioで提供されています。
他にもあると思いますが、とりあえず比較にはこれらで。
比較の結果
同じ曲なので、アーティスト側が用意した正式な空間オーディオ音源です。もし立体感に違いがあるとすれば、Atmosと360の技術的な差になると思います。
どの聴き方でも、頭の周囲で音が鳴っているような、立体音響に感じられますが、立体感を個人的な感覚で点数化してみました。最大100点です。
有線接続のイヤホン・ヘッドホン
Lightning端子に接続するDACを通して、有線接続のイヤホン・ヘッドホンで聴いてみた感想です。
結論として、Atmosと360に違いはありませんでした。
- Apple Music Dolby Atmos: 90
- Amazon Music Dolby Atmos: 90
- Amazon Music 360 Reality Audio: 90
- 360 by Deezer: 90
音質面では、DACの性格によって透明感が出たり、空間的な広がり感があったりという違いはありましたが、Atmosと360の違いによる立体感に影響はありませんでした。
イヤホンとヘッドホンで比べると、ヘッドホンの方がより立体感が良いと思います。まさにスピーカーから出ている音みたいに感じられます。
ちょっと驚いたのですが、昔iPhoneの付属品だったAppleのEarPods(有線接続のイヤホン)が素晴らしいです。
オープンイヤー型だからというのもあると思いますが、元々空間的な広がりを感じる独特なイヤホンでした。空間オーディオでこれを使うと、ヘッドホンと比べても遜色ないくらい、スピーカーから出ている音っぽくなります。
2,200円で買えるイヤホンがこの音になるとは、すごいとしか言い様がない。
Apple EarPods with 3.5 mm Headphone Plug
Apple EarPods with Lightning Connector
Bluetooth接続のイヤホン・ヘッドホン
手持ちのApple製でもソニー製でもないBluetooth接続のイヤホン・ヘッドホンで聴いてみました。
結論として、Atmosと360に違いはありませんでした。
- Apple Music Dolby Atmos: 90
- Amazon Music Dolby Atmos: 90
- Amazon Music 360 Reality Audio: 90
- 360 by Deezer: 90
無線接続の場合も、イヤホンとヘッドホンではヘッドホンの方がより立体感が良いと思います。
BOSE社のヘッドホンは、低音が豊かなおかげか、ウーファーのある立体音響システムみたいな迫力をヘッドホンで感じられました。
Apple製イヤホン・ヘッドホン
Apple製のイヤホンとヘッドホンで聴いてみます。
Apple AirPods Pro(イヤホン)
- Apple Music Dolby Atmos: 100
- Amazon Music Dolby Atmos: 90
- Amazon Music 360 Reality Audio: 90
- 360 by Deezer: 90
Apple AirPods Max(ヘッドホン)
- Apple Music Dolby Atmos: 100
- Amazon Music Dolby Atmos: 95
- Amazon Music 360 Reality Audio: 95
- 360 by Deezer: 95
Apple製イヤホン・ヘッドホンとApple Musicの空間オーディオの組み合わせでは、まさに本領発揮です。
頭の周辺で音が鳴っているみたいな感覚です。
Apple製イヤホン・ヘッドホンとAmazon Music・Deezerの空間オーディオだと、他社製のイヤホン・ヘッドホンと大差ないという印象です。
Amazon Music UnlimitedのAtmosとApple製イヤホン・ヘッドホンの組み合わせでは、Apple Musicの空間オーディオのような立体感にはならないですね。
ダイナミック・ヘッドトラッキングで最適化された空間オーディオが素晴らしい。
Sony製イヤホン・ヘッドホン
360 by Deezer は個人最適化が行われます。残念ながらAmazon Music Unlimitedは、個人最適化に対応していません。
Sony WF-1000XM4(イヤホン)
- Apple Music Dolby Atmos: 90
- Amazon Music Dolby Atmos: 90
- Amazon Music 360 Reality Audio: 90
- 360 by Deezer: 100
Sony WH-1000XM4(ヘッドホン)
- Apple Music Dolby Atmos: 95
- Amazon Music Dolby Atmos: 95
- Amazon Music 360 Reality Audio: 95
- 360 by Deezer: 100
Amazon Music Unlimitedでは、ソニー製ヘッドホンと360 Reality Audio の組み合わせでも、立体音響の本領発揮はできません。
他社製のイヤホン・ヘッドホンと同様に、充分に立体感はありますが、低音域が軽い感じになって現状ではちょっと残念な状態ですね。
Sony製イヤホン・ヘッドホンと360 Reality Audioの組み合わせは圧巻ですね。
これまた頭の周囲で音が鳴っているみたいに感じます。
こちらも、個人最適化された空間オーディオの効果が素晴らしい。
すごいことに、イヤホンでもしっかりと立体感があって、ヘッドホンとの差がほとんどありません。
結論
引き分け。
最適化していない状態での立体感は、Atmosと360で同等。
これでもしっかり立体的で、スピーカーから出ている音を聞いているみたいな感覚です。
最適化した空間オーディオも、Atmosと360で互角です。
立体音響のスピーカーから出ている音を、ベストポジションで聞いているような立体感です。
強いて違いを言えば、
- 360の方が少し広い部屋
- Dolby Atmosは低音がとてもいい雰囲気
という印象です。
ただ、耳の形に合わせてパーソナイズした AirPods Pro だと、360と同等の広さに感じられます。
特筆すべきは、Dolby Atmos + Apple 製イヤホン・ヘッドホンだと、低音が上質なスピーカーのウーファーが空気を振動させているという雰囲気に感じます。
360 + Sony 製イヤホン・ヘッドホンでも低音の太さや音圧といった数値化できる部分では同等だし、むしろ解像度が高くてキレがいいんですけど、なんとなく感覚的にスピーカーの音っぽく感じるのはDolby Atmosの方ですね。
イヤホンとヘッドホンでは、ヘッドホンの方がよりスピーカーの音っぽいです。
個人的に、イヤホン・ヘッドホンで聴く音楽とスピーカーで聴く音楽は、別の趣味だと思っていました。
同じように、空間オーディオで聴く音楽は、ハイレゾとは別の趣味だなと感じています。
空間オーディオによって、音楽の楽しみ方に新しいジャンルができたな、と思います。
Apple MusicとAmazon Music UnlimitedとDeezerのどれにしようか迷ったら、メインのイヤホン・ヘッドホンに何を使っているかで選んだらよいのではないかと思います。
Apple製イヤホン・ヘッドホンを使っている人
→ Apple Music
Sony製イヤホン・ヘッドホンを使っている人
→ Deezer
他社製のイヤホン・ヘッドホンを使っている人
→ Amazon Music Unlimited
【注意】Amazon Music Unlimitedのドルビー・アトモスだと、最適化できるデバイスがないので、立体音響ではあるけれど空間オーディオにはなりません。また、360 Reality Audio の最適化にもまだ未対応なので、360でも本当の空間オーディオではない、という状態です。
ちなみに、この記事の比較は“空間オーディオの立体感”なので、Apple製イヤホン・ヘッドホンとSONY製イヤホン・ヘッドホンを互角と判定していますが、音楽を聴く道具としての音の良さではSONYの圧勝です。Appleも値段に見合った高音質なのですが、SONYとは比較の対象になりません。
SONY製イヤホン・ヘッドホンといいつつ、Dolby Atmos + Apple 製のスピーカーの音っぽさは魅力です。
で、おまえは何使ってるの?
って思いますよね。今のところ、
- 仕事をしながらとか、気楽に音楽を聴きたいときはApple製 + Apple Music
- プライベートな時間にじっくり音楽を鑑賞したいときはSony製 + Apple Music
に落ち着いています。
Amazon Music Unlimitedがダイナミック・ヘッドトラッキングや360の最適化に対応したら、メインに切り替えるかもな〜と思っています。